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 暦部 閏秒(うるう秒)とは何か

理科年表 平成29年版
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  2012 年は閏年であり、例年より 1 日長いことは言うまでもない。さらに、7 月 1 日には閏秒が挿入されたので、2012 年は 1 日と 1 秒も長いことになる。奇しくも 1 月には閏秒存続の是非が国際機関で議論されたこともあり、今回はこの話題に触れたいと思う。
 もっとも素朴な時間単位が昼と夜の繰り返し、すなわち 1 日であることには誰も異論はあるまい。人類が日時計を発明し、太陽の動きから時間の流れを捉えたことは必然的であった。もし月がいつも同じ面を地球に向けるように、地球がいつも同じ面を太陽に向けていたとしたら、永遠に昼または夜が続き、時間を考えることもなかったかもしれない。
 この太陽の動きは、最終的に地球の自転運動に帰着する。すべての天体が同じように日周運動するのは、地球が一定の角速度で自転を繰り返しているからだ。十分な精度の時計がなかった第 2 次世界大戦前後までは、むしろ天体の南中を観測して時刻を補正したほどである。このようにして 1 日の長さが定まり、それを分割して時・分・秒という概念も成立することになった。
 一方、現代では、原子時計によって1秒の長さ原子秒や時刻を定めている。これは、原子の吸収・放出する電磁波が特定の周波数のものに限られる性質を利用したもので、セシウム 133原子1)にとっては周波数 9192631770 Hz の電磁波がこれに該当する。その電磁波が 1 秒間に 9192631770 回振動するということから逆に、それだけ振動するのにかかる時間こそ 1 秒だと定義したわけである。
 ところで、正確な時計があると、今度は地球の自転に変動があることがわかってくる。図 1 は地球の自転により定めた 1 日が 86400 原子秒24 時間からどれだけずれているかを示したものである。とても複雑な変動しているが、平均的に 0 にはならず、おおよそ 1 ミリ秒ほど長いことが見てとれるだろう。



 1 ミリ秒などわずかだと思うかもしれない。しかし、この差は毎日累積するため、1 年で約 0.3 秒、3 年もたつと 1 秒に達する。この 1 秒のずれを補正して、原子時計により機械的に定めた時刻である国際原子時 TAIを、地球の自転により定めた時刻である世界時UT1に近づける作業が閏秒の挿入であり、その結果誕生したのが協定世界時 UTCという時刻系である図2 ) 。



 閏秒を挿入せず、ひたすら時計の針の示すとおりに生活するとどうなるか。地球の自転による 1 日のほうが長い = 自転による地球回転が時計の針の回転より遅いことになるから、日の出入りや南中時刻は次第に遅くなり、長期的に見れば、真夜中に太陽が南中することも起こりうる。また、望遠鏡に天体を自動導入するシステムや天体から自身の位置を割り出す天文航法も、別途地球回転の情報を得なければ破綻をきたすことだろう。
 ところで、なぜ地球の自転はこれほど変動するのだろうか。これにはさまざまな要因があるが、数年以下と周期の短い変動は、おもに大気のもつ角運動量の変動に由来することが知られている。地球全体は閉じた系と考えられるから、季節による風向きの変化や質量分布の変化で大気の角運動量が変動すると、角運動量保存則に従ってその分を自転の角運動量で補うことになるのである。これにより自転は速くなったり遅くなったりするわけだが、大気の運動予測は難しく、あらかじめ将来を予想することは困難である。
 一方、長期的には地球の自転は減速していることが過去の日食記録
や古生物の年輪などにより確かめられている。図 3 のように月の重力潮汐力)で地球が変形する状況を考えてみよう。地球が変形する間にも自転は続くため、変形方向は月よりも前を向くことになる。ここで、地球上の A や B に働く力から地心に働く力を除くと、両者とも自転と反対方向の成分が残り、自転は減速する。過去の日食記録からは、1 日の長さがだいたい 100 年で 2 ミリ秒ずつ増加するペースといわれているが、潮汐変形は海水と海底の間などで摩擦を伴いエネルギーが散逸するため 潮汐摩擦、これまた理論的予測が困難なのである。



 また、この効果は一方的に減速するという意味でも厄介である。仮に、現在の 1 日が 1 ミリ秒超過で、2 ミリ秒 / 100 年ペースで長くなると仮定すると、100 年後の 1 日は 3 ミリ秒超過、1 年で 1 秒になるから閏秒は年 1 回。さらに 100 年後の 1 日は 5 ミリ秒超過、1 年で 2 秒に達するから閏秒は年 2 回必要になる。その後も年 3 回、4 回と増えていくことは明らかだ。閏秒を挿入しない場合でも最初はゆっくりとしたペースだが、しだいに加速度的にずれは増大していく。
 このように、閏秒は短期的にも長期的にも予測が困難、かつ長期的 解決にもならないものといえる。他にも、閏秒が入ると時刻が不連続になってしまうなど不便な点も多く、見直しの議論が始まった。
 閏秒など現在使われている時刻系は、国際電気通信連合無線通信部門ITURの TF.4602) という勧告にまとめられている。かれこれ 10 年以上にわたって議論を続けてきたものの作業部会での意見はまとまらず、2012 年 1 月の総会での採決に委ねられたが、賛成日本、アメリカ、ヨーロッパ諸国など ) ・ 反対 イギリス、カナダ、中国の溝は埋まらないまま、事情がよくわからないとして意見を保留する国も多数出たため、2015 年の総会まで先送りされるという異例の事態となった。
 反対派の主張は、たとえば、閏秒は既に問題なく挿入されている、
GPS のように連続性を要求するシステムがあっても各々変換すればよいだけであり両立可能といったものである。確かに、精度を必要とする天文観測では地球回転変動を別途補正する他に手段がないが、一般市民にまで同じレベルを要求すべきかは別問題であろう。
 最後に、天体暦にとってどのような影響があるか考えてみよう。暦部における世界時とは UT1 のことであるが、閏秒を挿入していれば UT1 と UTC は近いので実用上問題はない。閏秒を廃止すると、二十四節気や朔弦望のような地心で定義する現象については自転という不確定要素が減るため長期予測が可能になる。しかしながら、日の出入り、南中、日月食など、特定の地点で起こる現象については、地球がそこまで回転することが必要だから、これまでどおり UT1 の予測を元に現象を予報し、時刻だけ UTC3) に変換することになるだろう。閏秒のない UTC における均時差などは、なんだかわからないものになってしまうので、併記などの検討も必要だろう。
 さまざまな分野に影響を与えるこの議論、行方はまだ見えていない。

【片山真人】

1 ) このセシウムは放射性物質ではない。
2 ) http://www.itu.int/rec/R-REC-TF.460/en
3 )名称は変わるかもしれない。