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 天文部 宇宙の加速膨張の発見

理科年表 平成28年版
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 2011 年のノーベル物理学賞は、「遠方の超新星爆発の観測による宇宙の加速膨張の発見」に対して、サウル・パールムッター教授、ブライアン・シュミット教授、アダム・リース教授の 3 氏に贈られた。本稿では、どのようにしてこの発見がなされたのか、また、この発見が宇宙の進化の理解にどのような影響を与えたのか、について概説する。
 20 世紀の初頭、エドウィン・ハッブル博士は、遠方の銀河は我々から遠ざかっていて、その遠ざかる速さはその銀河までの距離が遠いほど速い ということを発見した。これは、宇宙が膨張していることを意味している。
 しかし、宇宙が膨張しているとしても、宇宙の中に存在する物質の影響で膨張の速度は時間とともに小さくなると考えられていた。物質は互いにかかる重力で引き合い、速度が落ちていく。たとえば、石を空に向かって放り投げると、最初は勢いよく上がっていくが、あるところで上昇は止まり、その後地上に落ちてくる。最初の打ち上げる力が大きければ、地球の重力の影響しないところまで飛んでいくが、その後はほぼ等速度で運動するようになる。
 今回の発見は、この宇宙の膨張の速さが「加速」している、つまり速度を増しながらどんどん宇宙が膨らんでいる、ということを観測から明らかにしたのである。つまり、先の例でいえば、上に放り投げた石が何もしないのにどんどん加速しながら上昇していくような状況である。これは非常に不思議な現象といえよう。
 それでは、どのような観測によってこの発見がもたらされただろうか。宇宙の膨張速度の観測には、銀河の遠ざかる速さと、その銀河までの距離 を測定する必要がある。銀河の遠ざかる速さは、銀河のスペクトルの波長のずれから測定する。我々から遠ざかっている天体からの光は波長が長い、つまり、赤い方にずれて観測され、そのずれの大きさが遠ざかる速度に対応する。じつは、この波長のずれは、光が放射された時の宇宙の大きさに対応している。一方、銀河の距離の測定は、天文学の難しい問題であるが、ハッブルの場合も今回も標準光源を使った距離測定が行われた。標準光源とは絶対的な明るさのわかった天体を意味し、遠くにある光源は暗く観測される原理を使って距離を測定する。ハッブルの場合にはセファイド型変光星と呼ばれる天体が使われた。しかし、セファイド型変光星は最新の望遠鏡を使っても約 6000 万光年までしか観測できない。6000 万光年は宇宙の歴史でいえばごく最近である。
 今回の観測は 1990 年代後半に行われ、銀河の距離の測定には Ia 型超新星と呼ばれる天体が使われた。Ia 型超新星とは、白色矮星と呼ばれる高密度の天体に、連星系をなしているもう一方の星からの物質が流れ込むことで核反応が暴走し、爆発して明るく見える天体である。一番明るくなったピーク時の明るさがほぼ一定であることが知られているため、銀河の距離の測定に使うことができる。Ia 型超新星はセファイド型変光星よりもずっと明るく、今回の観測では、約 70 億光年先までの超新星が観測された。
  非常に遠くの、つまり昔の超新星を観測することで、宇宙膨張の速度が昔と今とでどのように変化しているかを調べることが可能になった。宇宙が一定の速度で膨張している場合に比べて、減速 加速しながら膨張している場合は、過去の膨張速度は速かったので、同じ時間だけ昔には宇宙はより小さ 大きかったことになる。つまり、波長のずれが同じになる、同じ宇宙の大きさになるには、より短 い時間かかることになる。光は常に光速で伝わるので、時間の違いは、距離の違いに相当し、光はより明る く観測されることになる。
 3 氏の観測によると超新星は宇宙が一定の速度で膨張している場合に予想されるよりも暗く観測されたのである。この観測の結果、宇宙の膨張は減速しているどころか加速していることが明らかになった。これは、宇宙の中の物質による重力に打ち勝つ斥力が宇宙全体に働いていることを意味している。
 この宇宙を加速膨張させている斥力は、暗黒エネルギーと名付けられ、超新星の観測とは異なる複数の方法を使ってその存在が確かめられ、現在の宇宙の中のエネルギーの約 73% を占めていると考えられています。しかし、その正体については理論的には全くわかっていない。真空の エ ネルギー密度と解釈されているが、現在の素粒子理論では、その量は観測的に明らかになった量の 10 の 120 乗倍も大きくなってしまう。また、アインシュタインの一般相対性理論を修正した重力理論で説明しようという案もある。いずれにせよ、暗黒エネルギーの影響は我々の周りの現象では観測できない非常に小さなものであり、広い宇宙を観測することによって調べることができる。暗黒エネルギーの性質をより詳しく知るためにさまざまな宇宙の広領域のサーベイ観測が計画されている。

【安田直樹】