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 天文部 太陽系の元素組成

理科年表 平成28年版
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 今年の理科年表では「宇宙の元素組成」の項にある「太陽系の元素組成」の表を一新した.これまで長きにわたってAnders と Grevesse による 1989 年の論文 [1] をもとにしていたが,これを Asplund らによる 2009 年のもの [2] に置き換えた.新旧の元素組成の違い(組成の比)を図 1 に示す.

 太陽系組成の測定においては,この 20 年間に大きな進歩があった.ひとつには,太陽光球からの光のスペクトル分析に用いられる原子・分子スペクトル線の遷移確率の精度・信頼性の向上があげられる.また,組成の測定に用いられる吸収線のなかには,他の線の混入の評価が改善されたものもある.さらには,大気モデルやスペクトル線形成の計算において 3 次元構造や non-LTE(局所熱力学平衡からの乖離)の影響がとりいれられるようになってきた.

 1990 年代までは,太陽光球における鉄の組成にも,研究によって 50% 近くの食い違いがあり論争となっていたが,一階電離した鉄のスペクトル線の測定精度が向上し,低い鉄組成のほうに収束した.太陽大気において,鉄は大部分が一階電離した状態にあり,そのスペクトル線の遷移確率のデータが整ったことが寄与している.3 次元大気モデルを用いた non-LTE 計算では,中性の鉄のスペクトル線の解析からもこれに一致する結果が得られている.結果的には以前の理科年表で採用していた値とも一致しているが,これは 3 次元効果と non-LTE 効果が相殺しているためとされている.なお,今年の理科年表では隕石の化学分析から決められた値を採用しており,太陽光のスペクトル分析から得られた値より 10% ほど低くなっている.

 大気モデルとスペクトル線計算の改訂の影響は,炭素,窒素,酸素の 3 元素に大きく表れている.これらの元素は量的に多いが,測定に使える原子スペクトル線が限られている.このため分子(CH,NH,OH)スペクトル線も組成の測定に用いられるが,以前の解析では異なるスペクトル線を用いた測定の結果に無視できない食い違いが見られていた.これが 3 次元大気モデルに基づく解析ではよい一致をみるようになったとされる.特に大きな影響が表れるのが分子スペクトルで,3 次元大気モデルでは光球の表層が低温になることから分子の形成が進み,従来見積もられていたよりも低い元素組成で観測されている分子吸収が説明できる.このため,3 元素の組成が 20% 程度あるいはそれ以上低くなった.なお,最も組成の大きな酸素については,組成の測定に用いられていた中性酸素の弱い禁制線への他の元素の吸収線の混入が再評価されたことも酸素組成の測定結果に影響している.

 これらの 3 元素の組成が下がったことにより,金属量 Z の値も従来の見積もりより小さくなった(Z=0.0134).これは,太陽の金属量としてよく用いられてきた 0.02 程度,という値に比べると 3 割以上低いが,1 次元大気モデルによる解析でも 0.017 程度という値が得られた例もあり,モデルの問題だけではないことに注意が必要である.

 この金属量については,しかしながら日震学からの見積もりとは食い違いを示している.日震学から見積もった太陽内部の音速分布や表面対流層の深さなどをよく説明するのは,むしろ従来の高めの金属量である.

 鉄より重い元素については,スペクトル線の遷移確率の再測定と太陽スペクトルの再解析が系統的に進められてきている.これにより測定精度は大幅に向上し,隕石の化学分析から得られた値との一致もよくなってきている(図 2 ).

 このように,今回採用した太陽系組成に議論の余地がないわけではないが,25 年前の測定に比べると様々な面で改善がみられることを考慮して,表を改訂することにした.

【青木 和光】


[1]Anders & Grevesse 1989, Geochim. Cosmochim. Acta, 53, 197[2]Asplund, Grevesse, Sauval & Scott 2009, Ann. Rev. Astron. Astrophys., 47 481


図 1 太陽系の元素組成について,今年の理科年表で採用した値と昨年までのものとの比.多くが ±10% 以内に入っているが,金属量の見積もりに大きく影響する炭素,窒素,酸素(C,N,O)の組成比が 20% 程度小さくなっている.また,希ガス(Ne, Ar, Kr)の組成の改訂幅も比較的大きい.


図 2 太陽系の元素組成.白丸が隕石の化学分析から求められた値で,黒丸が太陽光の分析などから得られたものである.ケイ素(原子番号 14 番)で 106 に規格化されている.揮発性の軽元素や希ガスは隕石の分析からは決められないものが多い.逆に重元素のなかには太陽光のスペクトル分析から組成を決められないものもある.それ以外の元素では,太陽光の分析と隕石の分析から得られた結果によい一致がみられる.