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 iPS細胞研究の最前線:再生医療への応用に向けて

理科年表 平成29年版
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 我々の体の様々な細胞になることができる胚性幹細胞 ( Embryonic Stem Cell,ES細胞 ) は,受精後の発生初期段階の一部の細胞より樹立され,半永久的に増殖し,体を構成するすべての細胞へ分化することができる能力を持った多能性幹細胞である.ES 細胞は 1981 年にマウスで始めて樹立され, ノックアウトマウスという革新的な技術を生み出し,病態解析に大いに貢献した.1998 年にはヒト ES 細胞が樹立され,再生医療への応用という観点から注目を集めている.しかし,将来人間になる可能性を持つヒト胚を破壊し作製された ES 細胞の医療応用には,倫理的課題,移植後の拒絶反応などの問題がある.

  そこで我々は本当に医療に応用できる多能性幹細胞の作製を試みた.その結果,ヒトとマウスの体から採取した体細胞から人工多能性幹 ( induced pluripotent stem,iPS ) 細胞の樹立に成功した.方法は難しくなく,マウスやヒトの線維芽細胞に多能性を誘導する因子として遺伝子の読み手である転写因子をたった 3 つか 4 つ入れるだけである.遺伝子の数が何万とある中で,それらの因子を選ぶことができたのは幸運でもあった.このように分化した細胞から多能性を持つ細胞に変化させることをリプログラミングと呼ぶ.しかし,これらの因子を体細胞に導入し iPS 細胞ができる過程はブラックボックスのままである.今後はこの点についての解明も行わなければならない.

  ヒト iPS 細胞が樹立できたということは再生医学および再生医療において非常に重要な意義があると考えられる.例えば,ある遺伝的な疾患を持った患者の体細胞を採取して iPS 細胞を樹立する.iPS 細胞からは神経細胞 や筋肉の細胞,肝臓の細胞,など様々な細胞を「試験管の中 ( 実験室の中 ) 」 で作り出すことができる.つまり,脳神経に遺伝的疾患を持った患者から樹立した iPS 細胞から神経細胞を樹立すれば,その疾患のモデル細胞を作ったことになる.この疾患モデル細胞は十分量準備できるので,疾患の病態解析や薬効試験などに利用することができるので,今までできなかったような解析も可能になる.また,患者の現在の細胞 ( 病気になっている状態 ) と iPS 細胞から作った細胞(まだ病気になっていない状態 ) を比べるという時間を越えた新しい研究方法も可能である.実際に,世界中で疾患モデル iPS 細胞が多数樹立され始めている.

  ヒト iPS 細胞の研究が進み再生医療へ利用できるレベルの安全性が確保されたときは細胞移植治療への応用が期待される.患者自身の体の細胞から iPS 細胞を樹立し,治療に必要な細胞を準備し,患者に移植する,という理想的な再生医療が実現するかもしれない.今後も iPS 細胞の研究を精力的に進め,再生医療への応用を目指したい.

【山中伸弥 / 中川誠人】
( 理科年表 2009年版平成 21 年版生物部トピックスより )

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