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 惑星系形成論 : 最新 “ 太陽系の作り方 ”

はじめに

  私たちの住む地球、そして太陽系の他の惑星たちは宇宙の中でどのようにして誕生したのだろうか。誰でも一度は不思議に思ったことがあるのではないだろうか。太陽系には水星、金星、地球、火星、木星、土星、天王星、海王星の個性豊かな 8 個の惑星がある。これらの惑星の個性はどのようにして生まれたのだろうか。現代天文学では、太陽系は宇宙空間に漂うガスとダスト ( 固体微粒子 ) から誕生したと考えられている。太陽系形成の時間スケールは数十億年、空間スケールは数十天文単位 AU 、1 AU は約 1 億 5000 万 kmで、固体惑星の材料となるダストから惑星まで、構成粒子のスケールは μm から数万 km にまで及ぶ。

 太陽系形成のシナリオの基礎的な枠組は 20 世紀後半、旧ソビエト連邦の V.S.Safronov や京都大学の林忠四郎の研究室によって考案された。彼らは観測することが不可能だった惑星系形成過程を、天体現象の素過程を理論的に解明しそれを積み上げることによって描き出そうとした。それに続き、多くの研究者が自然な太陽系形成シナリオの構築に努力してきている。ここでは最新の太陽系形成シナリオの基本的な枠組を紹介する。

太陽系の構造

 太陽系の起源を考える上で重要となる太陽系の特徴をまとめておこう。太陽系には内側から外側へ向かって、地球型 ( 岩石 )、木星型 ( 巨大ガス )、天王星型 ( 巨大氷 ) の 3 種類の惑星が並んでいる ( 図 1 )。

 

 

図 1 太陽系の模式図

 

  水星、金星、地球、火星は地球型惑星で、岩石質の惑星である。木星と土星は木星型惑星で、質量のほとんどはガス成分である。ガスの主成分は水素とヘリウムになる。天王星と海王星は以前は木星型惑星と分類されていたが、最近は天王星型惑星と分類されている。天王星型惑星のガス成分は質量の約 10 % しかなく、質量のほとんどは氷 ( 水、メタン、アンモニアを主成分とする混合物 ) である。

 惑星の軌道には共通の特徴がある。 軌道はほぼ円軌道で、軌道離心率はほぼ 0.1 以下になっている。 また、軌道面はそろっていて、太陽系の平均的な軌道面に対しての軌道傾斜角 ( ラジアン ) はほぼ 0.1 以下となっている。つまり、惑星の軌道は同一平面内の太陽を中心とする同心円になっている ( 図1 )。 そして全ての惑星は軌道上を同じ方向に公転運動している。

 惑星の総質量は太陽質量の約 1 / 1000 倍しかなく、そのほとんどは木星と土星に集中している。一方、惑星の軌道角運動量の大きさは太陽の自転角運動量の約 190 倍にもなる。 つまり、太陽系では質量は太陽に集中し、角運動量は惑星に集中している。

 

太陽系形成の標準シナリオ

 このような特徴をもつ太陽系はどのようにして形成されたのだろうか。太陽系形成の標準シナリオは次の 2 つの概念を基本としている。

・ 円盤仮説
惑星系は太陽に比較して小質量のガスとダストからなる太陽周りの回転する 円盤から形成される。

微惑星仮説
ダストから微惑星とよばれる小天体が形成される。それを材料にして固体惑星が形成される。ガス惑星は固体惑星がガスを捕獲することによって形成される。

 円盤仮説は太陽系の質量の太陽集中と角運動量の惑星集中、惑星軌道がほぼ同一平面内にあるという事実から自然に推測される。 この太陽系の母胎となる円盤は原始太陽系円盤とよばれる ( 原始惑星系円盤ともよばれる )。 円盤のダストは前世代の恒星の中で合成され、その最後に星間空間に放出された重元素 ( ヘリウムより重い元素 ) が起源である。 微惑星仮説は地球型惑星と天王星型惑星はもちろんのこと、木星型惑星でも重元素存在比が太陽での存在比より大きなことから要請される。つまり、惑星を作るには原始太陽系円盤の中でダスト成分を濃縮する必要がある。

 図 2 に原始太陽系円盤からの太陽系形成の概念図を示す。正確には惑星形成は太陽系の内側ほど速く進むために外側ほど形成段階が遅れるが、この図では簡単のため全ての領域で同時に惑星形成が進むように描いてある。

 

 

図 2 太陽系形成の標準シナリオの模式図
( 原始太陽系円盤を横から見た場合の片側だけを描いている )

                                 

0. 原始太陽系円盤の形成
 太陽形成の副産物として原始太陽のまわりにガスとダストからなる原始太陽系円盤が形成される。円盤の総質量は太陽質量の約 1 % で、さらにその中の約 1 % がダストである。ダストは μm サイズである。雪線 ( 約 3 AU ) の内側ではダストの主成分は岩石 ・ 金属になり、外側では氷になる。

1. 微惑星の形成 ( 106 年 )
 ダストは太陽のまわりを公転しながら円盤の中心面に落下し、ダスト層が形成される。ダスト層は臨界密度を越えると、重力的に不安定になり分裂する。この分裂片が収縮して微惑星 ( 約10
15 - 1018 kg ) が形成される。

2. 原始惑星の形成 ( 106 - 107 年 )
 微惑星は太陽のまわりを公転しながら衝突合体 ( 集積 ) して成長する。大きな微惑星ほど強い重力で周囲の微惑星を集めて速く成長する。これは暴走的成長と呼ばれる。微惑星の暴走的成長により原始惑星 ( 10
23 - 1026 kg ) が形成される。原始惑星はある程度大きくなると重力で周囲の微惑星のを振り回してしまうため成長が鈍り、また重力による相互作用によって隣どうし一定の間隔を保ちながら成長する。

3. 惑星の形成 ( 107 - 109 年 )
 地球型惑星領域では、原始惑星どうしの衝突によって地球型惑星が形成される。木星 ・ 天王星型惑星領域では、原始惑星が重力によって原始太陽系円盤からガスをまとうことによって木星型惑星と天王星型惑星が形成される。

 

  惑星が内側から、地球型、木星型、天王星型と住み分けているのは自然に説明される。まず、地球型惑星と天王星型惑星の組成の違いは雪線の内側と外側のダストの組成を反映している。雪線とは円盤温度が水 H2O ) の昇華温度になる場所で、その内側では水は水蒸気となり、外側では氷となる。木星型惑星が形成される領域は次のように制限される。原始惑星の質量は太陽から遠いほど大きくなる。 これは太陽から遠いほど太陽重力の影響が弱く、広い領域から材料を集めることが可能なためである。また雪線の外側だと水が氷になっている分、固体成分が多いという効果もある。ちょうど木星型惑星領域になると、ガスを重力で大量に捕獲できるほどの大質量の原始惑星が形成される。 一方、原始惑星の形成時間は太陽から遠いほど長くなる。これは太陽から遠いほど公転周期が長く、微惑星の空間密度が小さくなっているためである。そのため天王星型惑星領域でも十分に大きな質量の原始惑星が形成されるが、その形成に時間がかかり過ぎ、形成される前に円盤のガスがなくなってしまうためにガスを大量に捕獲することができない。 円盤のガスは、観測から約 1 千万年で散逸してしまうと見積もられている。 この理由ははっきりしないが、内側は惑星によって中心星に落とされ、外側は恒星風や紫外線によって吹き飛ばされると考えられている。このようにしてちょうど現在の木星と土星の領域にのみガス惑星が形成される。

 以上が、太陽系形成の標準シナリオの概要である。 このように惑星は原始太陽系円盤の進化の中で必然的に形成されるものと考えられている。 このシナリオはまだまだ多くの問題をかかえてはいるが、大枠で現在の太陽系の基本的な特徴を説明することができる。

 

【小久保英一郎 国立天文台理論研究部 (2007年8月)】