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 太陽系外縁部の基礎知識 : 観測編

 1992 年の発見以来、現在までにおよそ 1000 個の太陽系外縁天体が発見されています。もともと太陽系外縁天体は、短周期彗星の供給源として専門家の間で注目を集めていましたが、昨年冥王星が惑星から「準惑星」となった際、冥王星の仲間として話題になったため、一般の方々にもその存在を知られるようになりました。冥王星は大きさがおよそ 2000 km に及ぶ太陽系外縁天体の親分だと言うわけですが、もっと小さなその他の子分たちとは、いったいどこが違うのでしょうか?

 赤外線で天体からの反射光を測定すると、表面に存在する物質に固有の吸収帯を捉えられることがあります。こうした赤外線観測によって、木星や土星の衛星の多くは、その表面が水 ( H20 ) の氷で覆われていることが明らかになりました。一方、冥王星の表面には窒素 ・ 一酸化炭素・メタンなどが氷として存在します。太陽系の組成を考えると、氷としては水 ( H20 ) が最も多量に存在するはずなのに、冥王星の表面に窒素・一酸化炭素・メタンなどが卓越している理由は、これらの物質が水よりもずっと低い温度で昇華するからだと考えられています。太陽から遠い冥王星の表面はマイナス 200 度以下になっているため、昇華しやすい物質が霜のように表面を覆っているというわけです。ところが、「すばる望遠鏡」などの観測によって、冥王星のすぐ隣にある衛星カロンの表面は水の氷で一様に覆われていることがわかりました。太陽からの距離は冥王星とカロンでほぼ同じですから、表面の温度もほとんど同じはずですが、カロンくらいの大きさの天体では、昇華した物質がどんどん宇宙空間に逃げていってしまいます。一方、冥王星程度の大きさになると、昇華した物質を重力によってうすい大気として保持することができるため、いったん昇華した物質が再度表面に凝縮することで「霜」を形成しているのではないかと考えられています。カロンは衛星としては非常に大きく、冥王星のおよそ半分の大きさ 〜 1000 kmがあります。つまり 1000 km から 2000 km の間に、うすい大気を持てるかどうかの境目があると推測されます。

 この考え方によれば、冥王星が特別な表面組成を持っているのは、結局のところサイズが大きいからです。もし冥王星と同じくらい大きな太陽系外縁天体が存在すれば、その表面は水氷ではなく、メタンなどで覆われているでしょう。実際に、冥王星とよく似た表面組成を持つ海王星の衛星トリトン図 1は、なんらかの理由で海王星に捕われてしまった太陽系外縁天体ではないかと考えられてきました。また、その後の赤外線観測の進展によって、冥王星とほぼ同等の大きさを持つ太陽系外縁天体の表面にはメタンが存在することが明らかになりました。大きさだけではなく、表面組成という点においても、冥王星は特別な存在ではなくなってしまったわけです。

図 1 Voyager による海王星の衛星トリトンの画像。表面はメタンや窒素の氷で覆われている。冥王星や、その他の 2000 km 以上の太陽系外縁天体の表面も、このように見えるのでないかと推測される。

 では、もっと小さな普通の太陽系外縁天体の表面はどんな物質で覆われているのでしょう。単純に考えると、カロンや土星の衛星 図 2 のように水の氷で覆われていそうですが、「すばる」のような最大級の望遠鏡を使っても、表面組成を調べることができるのは、太陽系外縁天体の中でも比較的大きな数百 km 程度のものだけです。明確に水の吸収帯を観測できた天体はまだ数個しかなく、 1000 km 以下の太陽系外縁天体はすべて水氷でできているというわけではなさそうです。また吸収帯以外の表面組成を調べるための重要な情報に、可視域のアルベド 反射能があります。これは、入射してきた光の何割を反射するかという特性です。日常の経験からも推測できるように、一般に氷は岩石よりもずっと高い反射能を持ちますので、アルベドから表面物質をある程度類推することができます。ただし太陽系外縁天体のような遠方の天体の場合、可視光の観測だけからアルベドを求めることはできません。なぜなら
   ( 1反射能が高くてサイズが小さいもの
   ( 2反射能が低くてサイズが大きいもの
を区別することができないからです。天体表面で反射されなかった光のエネルギーは、いったん吸収された後、熱放射になります。ですから、可視光の観測に、熱放射を捉えられる赤外線や電波での観測を加えれば、 12を区別することができます。こうした手法で、太陽系外縁天体のアルベドを調べると、水氷ではありえないほど暗い表面を持つものが存在すること明らかになりました。この暗い物質はいったいなにからできているのでしょう?

図 2 Cassini 探査機による土星の氷衛星フェーベの画像。数十 〜 1000 km 程度の大きさの太陽系外縁天体の表面は、このように見えるのかもしれない。

 最初に述べたように、短周期彗星は太陽系外縁天体のなかの数 km から数十 km 程度といった比較的小さなものが、なんらかの原因で太陽系の内側に落ちてきたものだと考えられています。彗星は太陽に近づくに連れて、水や一酸化炭素の昇華によって活動をはじめ、あの見事な尾を我々に見せてくれます。しかし、彗星の本体である核の表面にはこうした氷が見つかっていません。氷は彗星核表面ではなく、もっと深いところに存在しているのです。 1986 年のハレー彗星を皮切りに、近年いくつかの探査機が彗星の表面を撮像しましたが、どの彗星も表面は非常に暗い物質で覆われていました 図 3 )。こうした暗い物質は、もともと彗星に含まれていた有機物が宇宙線などの照射によって変成したものではないかと言われています。短周期彗星が、小さな太陽系外縁天体を代表しているのであれば、数百 km 以下の太陽系外縁天体の表面に存在している暗い物質もこうした「焦げた有機物」なのかもしれません。

【中村良介 独立行政法人産業技術総合研究所(2007年6月)】

ヨーロッパの探査機ジオットが撮像したハレー彗星の核:
http://apod.nasa.gov/apod/ap000805.html
NASAの Stardust 探査機が撮像した Wild - 2 彗星の核:
http://apod.nasa.gov/apod/image/0401/wild2_stardust.jpg
NASAの Deep impact 探査機が撮像した Tempel-1 彗星の核:
http://apod.nasa.gov/apod/ap050915.html
NASAの Deep Space 1 探査機が撮像した Borrely 彗星の核:
http://apod.nasa.gov/apod/ap010926.html
図 3 探査機の撮像した彗星の本体 核 )。いずれの核の表面も、数 % の反射能しかない暗い物質で覆われている。小さな太陽系外縁天体は、このような暗い物質で覆われている可能性が高い。