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 太陽系外縁部の基礎知識 : 力学編

 太陽からはるか遠くの領域、海王星軌道の外側には、冥王星をはじめ、エッジワース・カイパーベルト天体(TNO)と呼ばれるあまたの小天体が存在している。この領域の天体の力学的特徴を強く支配しているのは、海王星である。本項ではこの TNO の力学的特徴を概観する。

 天体の軌道は、軌道長半径(a)、離心率(e)、軌道傾斜角(i)などで表現される。軌道長半径は、軌道楕円の長軸の半分の長さを表し、離心率は軌道楕円の円からのずれを表すパラメータである(図 1)。また、軌道傾斜角は軌道面の傾きを示す。「エッジワース・カイパーベルト天体とオールトの雲の起源」のページで触れられているように、その軌道分布から、 TNO は(1)共鳴天体(2)散乱天体(3)古典的天体の3つに大別される。それぞれの天体が軌道面上で占める領域を概念的に描いたものが図 2 である。そして、実際に軌道の確定している TNO について、その軌道長半径に対し、離心率、軌道傾斜角の分布を図 3 に表す。

図 1 : 離心率と軌道長半径
図 2 : 3 種類の TNO の軌道面上における分布
図 3 : TNO 天体の分布。上 : 離心率、下 : 軌道長半径。矢印は平均運動共鳴の位置。青線は近日点が 30AU となるライン。


 その区分についての明確な定義はなされていないが、この 3 種の天体の特徴はおよそ次のようにまとめられる。

 まず共鳴天体は、その軌道周期が海王星の軌道周期と整数比をもつ天体である。図 2 でこれらは、緑色の矢印で示した平均運動共鳴の位置に存在している。冥王星が海王星と交差軌道にあっても決して衝突しないのと同様に、共鳴天体も、海王星との近接遭遇をかならず避けるように運動をする。一般に海王星がn回公転する間に TNO が m 回公転する関係を n : m の共鳴にあるという。共鳴の中でも、惑星に対し n + 1 : n である共鳴は、そこにある天体に強い力学的影響を及ぼす共鳴である。海王星と冥王星は 3 : 2 の共鳴となっている。

 つぎの散乱天体は、海王星によって散乱された天体である。図 2 では紫色の領域に分布している。 TNO は近日点が海王星の軌道に近づくと、海王星から強い重力相互作用を受けて散乱させられる。図 3 の青線は近日点が 30AU の場所を示していて、このラインの近傍にある天体が散乱天体になる。散乱天体は、海王星との近接遭遇を繰り返して、このライン上をさらに太陽からさらに遠くに広がっていく。

 上記 2 つ以外の TNO 、つまり、海王星による散乱を受けず、共鳴の位置にもない天体が古典的天体である。 TNO の軌道長半径の分布をみると、 50AU のところで明らかに天体数が激減している(図 3 左上)。 TNO の分布がここで途切れることは、現在の太陽系の力学的な作用だけでは説明がつかず、その謎はいまだ決着していない。古典的天体と言った場合、一般には、この 50AU より内側の天体だけを指す。

 以上の区分とは別に、軌道傾斜角についても区分がなされ、その角の大きいものはホット天体、小さいものはコールド天体と呼び分けられている。黄道面などの低い緯度帯の観測に比べて高い緯度帯の観測は少ないので、図 3 下に示した分布が必ずしも軌道傾斜角の真の分布になっているとはいえないが、不変面からほぼ 4 度のところで、特徴が異なると言われている。つまり、比較的サイズの大きい天体にはホットなものが多く、また、離心率の小さい天体にはコールド天体が多い。両者にはスペクトル的な違いもあり、コールド天体のほうが赤い傾向がある。これらの事実から、ホット天体とコールド天体は起源が別ではないかという示唆がなされている。

 「惑星形成論」のところで詳しく紹介されているように、太陽系の天体は、原始惑星系円盤から形成されたものである。 TNO も、本来、同じ平面上をほぼ円軌道をもつ天体として形成されたと考えられている。したがって、現在見られるような大きな離心率や軌道傾斜角を持つのは、その後に何かの力を受けて、その始原的状態から変化したことによる。このことからも、 TNO の力学的な構造の起源を理解することは、太陽系が経た進化過程を解明する上で、極めて重要と思われる。

  TNO の共鳴天体の起源は、海王星の移動によって共鳴に捕獲されたという考え方で理解される。木星から海王星が形成された後、惑星近傍に残った小天体は、惑星の重力摂動によって当初の軌道からしだいに跳ね飛ばされる。その反作用で、惑星もわずかずつ移動する。海王星がその軌道の内側に散乱させた小天体は、やがて、天王星、土星を介して、木星近傍へと運ばれ、さらに木星によって遠方の軌道や太陽系外に飛ばされる(図 4 - 1)。結果として海王星は、小天体を木星に供給する役割を果たし、小天体を内側の軌道に送るかたわら、自身も外側に移動する(図 4 - 2)。海王星の移動に伴い、海王星の平均運動共鳴の位置も外側に動く。共鳴の位置は安定なため、平均運動共鳴の掃く領域に存在する小天体はこの共鳴に捕らえられ、共鳴の移動とともに、外側に動く(図 4 - 3)。このようにして、冥王星を代表とする数多くの TNO が、共鳴の位置に集中したと考えられている。

図 4 : 海王星の移動と共鳴天体の形成の概念図

 

 一方、海王星がその軌道の外側に飛ばした小天体は、散乱天体として観測される。散乱天体は、近日点付近で海王星に散乱されて現在の軌道に入ったのであるから、その近日点が 30AU から 35AU あたりのライン上に束縛される形になる。しかし近年、 50AU よりも遠方でこのラインから外れた天体も発見され始めたため、新たな議論を呼んでいる。

 惑星移動の考えで共鳴天体の軌道分布は説明できても、古典的天体が大きな離心率、軌道傾斜角を持つこと、分布が 50AU で途切れていることの説明はまだつけられていない。力学的特性に関するこれらの謎に加え、領域で推測される全体的な質量に欠損があること、軌道傾斜角に 2 つの分布があり、それぞれの物理特性に偏りが見られることなど、 TNO には未解明の謎が多い。ひとつの物理現象ですべての謎を説明付けるような理論はまだないが、共鳴の通過によって TNO の軌道が乱されたのだとする説、大きな天体が海王星によって散乱され、それが TNO 領域を通過して小天体の分布をかき回したとする説、太陽系が生まれた頃、一員であったクラスター内の恒星と遭遇したために軌道や分布が影響を受けたのだとする説などが、起源に関する説として挙げられている。太陽系の進化過程と密接に関連するこれらの効果が重なり合って、現在の TNO の軌道を形成したのだとも言えよう。太陽系の進化過程を探る上からも、太陽系外縁部天体の成り立ちの研究は、今後の発展が大きく期待される分野である。

【長沢真樹子】