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 再生医学・生殖医療の最前線

理科年表 2020
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 近年の生殖医学の進歩にはめざましいものがあり、生殖現象の解明のみならず、ヒトの生殖現象を操作する新しい技術も開発されています。 20 世紀後半には、体細胞クローン羊の誕生とヒトの胚性幹細胞 ES 細胞の樹立という二大エポックが起こりました。 1998 年、 Thomson らは提供を受けたヒト受精卵を体外で胚盤胞のステージまで培養し、世界で初めて ES 細胞の樹立に成功しました。わが国においても、 2003 年京都大学再生研にてヒト ES 細胞株が樹立され、すでに研究のために提供機関に分配されており、 ES 細胞から様々な細胞に分化させ、細胞移植治療への応用が試みられています。

  ES 細胞から分化された細胞を使用しての移植医療において、最大の問題は移植免疫による拒絶反応をいかにして克服するかにあります。このためには、移植を必要とする患者から採取した体細胞の核を除核した未受精卵に移植することによって、まず体細胞クローン胚を作製した後、体外で胚盤胞まで培養し、内細胞塊から患者自身のゲノムをもった ES 細胞を樹立します。その ES 細胞より目的とする細胞に分化させ、細胞移植医療に使用することによって、移植免疫の問題を解決する可能性が考えられています )。自己のゲノムをもった ES 細胞から自己の配偶子を作製することが可能となれば、第三者からの卵子や精子の提供を受けなくても挙児を得られる時代が来るかもしれません。すでにマウスにおいては、 ES 細胞から配偶子を分化させ、その配偶子を用いて胚が作製されることが報告されており、クローン胚作製技術と ES 細胞樹立との連動により、自己 ES 細胞を用いる再生医療が可能になると思われます。

 

図 再生医学から生殖医療への展開

  2007 年の 11 月にはヒト皮膚の繊維芽細胞に 4 種類の転写因子を強制発現させることにより、ヒトの体細胞をリプログラミングさせ、胚性幹細胞 ES 細胞のような多能性を有する幹細胞 Induced Pluripotent Stem Cell ; iPSを樹立したとの報告が京都大学再生研の山中教授らによってなされました。このような iPS 細胞が樹立されるようになりますと、体細胞の核移植技術 いわゆるクローン技術を使用しなくとも、また倫理的に問題となる未受精卵を使用することなく、多能性幹細胞が樹立されることになり、新しい移植医療の道が拓かれるかもしれません。

  21 世紀の生殖医療は、神に代わって人が新しい生命を造り出す時代といえるかもしれません。今われわれ研究者が求められているもの、それは確かな基礎科学研究であると思います。医療への応用は最重要課題でありますが、いつの時代でも忘れてはならないことは生命の尊厳に対する畏れと謙虚さです。行政管理を主体とした規制は、ややもすれば研究の進歩の妨げとなるとの考え方もありますが、関連医学や科学の進展を不必要に妨げないようなシステム作りが急務であると思います。

【吉村泰典 日本産婦人科学会理事長(2008年 4月)】