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 神経疾患の遺伝子解析 ― 基礎編

理科年表 2020
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 「神経疾患の遺伝子解析」を理解するには、神経疾患と遺伝子解析の両方の知識が必要です。いずれもが、奥深く幅広い内容を持っているテーマですので、基礎編と応用編に分けて解説します。

 まず一般に病気の原因には、図 1 のように環境要因例えば寒くて風を引いたとか、躓いて転んで足の骨を折ったとか と、遺伝要因例えば家族性大腸ポリポーシスとか、血友病とか があります。多くの病気はその中間、つまり環境と遺伝の両方の要因が関係しています。例えば生活習慣病とされる高血圧や糖尿病などは、遺伝も関係していますが、食事、嗜好、運動などの環境要因も大いに関係しています。ところで、「神経疾患」とは、脳、脊髄、末梢神経、筋肉のどこかに病変がある病気のことです。神経疾患が注目されるのは、遺伝要因による病気、つまり遺伝病が非常に多いからです。

図 1 病気と遺伝子の関係

 

 遺伝とは、親が持っている形質例えば毛髪の色など が、子に伝わることです。父親の精子と母親の卵子との受精によって子が生まれますが、子のもつ形質を決める因子は遺伝子です。そして遺伝子は、個々の細胞の核の中におさまっている 22 対の常染色体父と母から 22 本ずつと 2 本の性染色体男性は XY、女性は XXの合計 46 本の染色体の中にありますごく少数の遺伝子は母親だけから受け継ぐミトコンドリアという細胞質にある小器官の中にあります 。遺伝病も 1 つの形質です。そして、遺伝子とは化学的にはデオキシリボ核酸DNA です。言い換えれば、遺伝病は DNA の異常によって起こるのです。

 DNAは、アデニンA )、シトシン C )、グアニンG )、チミンTの 4 種類の塩基から構成される鎖状の巨大分子で、1953 年にワトソンとクリックが、DNA 分子は互いに相補的な関係にある二本の鎖が二重らせん構造をとっていることを明らかにしました。つまり、図 2 に示すように DNA 分子は A が T と、そして C が G と対応してこれを相補的関係と言います 二本の鎖それぞれが互いに向き合ってらせん状に平行する構造をとっています。そして、DNA は、蛋白質を作る大切な機能を持っています。図 3 のようにDNA の情報は前駆体 mRNAメッセンジャー RNAに転写され、DNA 情報の中のアミノ酸配列にかかわる情報 E で示したエクソン部分以外の不要部分が切り取られて スプライシングmRNA になり、さらにその mRNA 情報はアミノ酸に翻訳されて蛋白質ができます。そして蛋白質によって生物体ができます。

図 2
出典 : 『バイオサイエンスのための新しい分子遺伝学』 齋藤日向、賀田恒夫、村松正実編 図 1.1 の一部改変 1986 年 2 月 1 日発行 南江堂 )

 

  mRNA の情報結局は DNA からの情報ですががアミノ酸に翻訳されるときの仕組みが大変重要なのです。そこには「暗号」が隠されているのです。つまり、連続した 3塩基の組み合わせが 1 つのアミノ酸に対応する暗号というわけです。例えば、 DNA レベルで ATG という三つ組みはメチオニンの暗号ですし、CAG はグルタミンのそれ、というようにすべてのアミノ酸について決まっています。けれども、当然ながら DNA の情報のどこから読み始めて、どこで読み終えるかによって作られる蛋白質が違ってきます。ですから、それも図 3 にあるように遺伝子の周辺にプロモーター 蛋白質をつくる命令を出し、どこから読み始めるかも決める部分 とターミネーターここで読むのをやめろという指令を出す部分 が用意されているのです。ですから、DNA の塩基のつながり方や並び順 これを塩基配列と言いますは病気との関連で大変大きな意味を持っています。この続きは「応用編」を読んでください。

図 3

 

 なお、1970 年代後半からは DNA を切り貼りする分子生物学の技術が大きく発展して、遺伝子の解析が可能になりました。さらに 1980 年代に入ると人間の病気を対象として遺伝子の異常の本態を探る研究が著しく発展しました。

【金澤一郎 日本学術会議会長(2008年 7月)】