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  川の長さ(日本)
地学部 「日本のおもな河川」より
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川の長さは、川の歴史
 川の長さは、一口で言えば「河口から水源地までの長さ」です。
しかし、この「河口」とはどこか? 「水源地」とはどこか? 川のどこを測るのか? 多くの枝分かれした川で、どれをその川の長さとするのか? などいろいろな疑問が湧いてくるのが、川の長さなのです。


 例えば、「河口」といっても、河口が二つある場合があります。昔からある川では洪水が流れにくいので、洪水を流すため新しく掘った「放水路」と呼ばれる川があります。その新しく掘った放水路の出口が、川の長さの基準の河口になる場合があります。


 以前からあった河口が変わると、川全体にわたって距離の表示が変わってしまいます。川全体の距離の表示が変わると、それまで何十年間も測定して、蓄積してきた水位や流量のデータが、大混乱を起こしてしまいます。そのため、古い川と新しい放水路が交差する地点で、距離の調整を行います。つまり、上流部の距離を変えずに、新 ・ 旧の川の交差地点で、強引に古い距離の表示にしてしまうのです。そのため、河口からの表示距離は、実際より短くなったり、長くなったりします。


 東京湾に流れ込む江戸川の場合、短い放水路が後から建設されました。そのため、全長にわたって、河口からの距離は、約 6 km 長めの表示がなされています。写真 12 は江戸川放水路の河口を示す 0 km の杭です。





 
写真 1


写真 2


 地図提供 国土交通省江戸河川事務所



 曲がりくねった川をまっすぐにする工事の場合にも、同じような問題が発生します。その場合にも、その川の事情によって、河口からの距離を修正したり、しなかったりしているのです。


  このような事情で、日本全国の川の長さは、厳密にかつ完全に統一されて表示されてはいません。 1 本 1 本の川は、それぞれの川の歴史を持っています。それぞれの川の歴史の中で、その川の長さは決められてきているのです。


 ここで述べる川の長さは、純粋な地理、地形上の川の長さではなく、人間が河川と付き合い、河川を管理していく上での川の長さとなります。




川の長さの一般的な原則
 川ごとに千差万別の歴史があり、川の長さはその歴史の中で決められていることを前提にして、川の長さの測り方の一般的な原則を述べます。


  図 1 の上の図は、川のモデル的な平面図を示し、下の図は川の全長を横から見た断面図を示しています。




図 1 河川のモデル平面図と断面図


( 1 河口が川の長さの原点
 川と海と交わる地点が河口です。その河口地点が、川の長さの原点になります。


ところが、河口で埋立てが行われた場合、河口の原点を、新しい埋立地へ移動させると、川の全長にわたって距離の表示が変わってしまいます。埋め立てのたびに、河口からの長さが変わってしまうのでは、混乱が生じます。そのため、埋め立て部分は一般に「マイナス」表示にします。つまり、川にはマイナスの距離があるのです。それを図 2 で示しました。





図 2  河口部で埋め立てがあった場合の平面部




2 一番長い延長の流路が、本川ほんせん )
 川には何本も枝の川、すなわち支川しせん があります。一番長い延長の川を本川ほんせん と呼びます。その本川の長さを、その川の長さとします。


 一番長い川がはっきりしていれば、問題はありません。ところが、一見しただけでは、どれが一番長い本川で、どれが支川か判らない場合があります。正確に測量すれば判りますが、昔の人たちはその測量技術はありませんでした。


  そのため、有名な山から流れ出ている沢を本川、と決めてしまった場合もあります。しかし、今となっては、それを変更したりはしません。河川全体を管理する上では、そのわずかな差は重要な問題とならないからです。沢の長さを厳密に比較して、水源地を変更したりすると、過去に蓄積された資料や郷土の物語や歴史が混乱してしまうのです。




3 川の長さは、川の中心を結ぶ

 図 1 で示したように、川の中心を結んで距離を測量していきます。中心と中心は直線で結び測量するので、曲線が大きい部分では、密に中心を設定していきます。


 堤防がある区域は、堤防と堤防の中間の点を結んでいきます。堤防と堤防の距離が大きい場合、川の中の低水路と呼ばれている部分の中間の点を結ぶこともあります。


  それを図 3 で示しました。





図 3  堤防がある区間の河川断面



 堤防がない川の区間では、水の流れている中央あたりを中心とします。図 4 でそれを示しました。





図 4  堤防がない区間の河川断面




( 4 山間部の渓谷では、地図を利用して算定
 山間部の渓谷のような急な地形になると、現地の測量は簡単ではありません。その場合は、地図を利用して、斜面距離を図面上で計算して川の長さとします。それを図 5 で表しました。地図から沢沿いの地形を出して、それを図面上で計算します。





図 5  地図から地形をつくり斜面距離を出す。





( 5 川の上流端は分水嶺
 一般的に川の上流端は、山の境界の分水嶺になります。


  標高の高い山間部は、現地の測量ではなく、地図上の計算ですから、地図上で判定できる分水嶺までの長さを計算することになります。


 ところが、実際に、山の分水嶺を訪ねても、川はなく、水の流れもありません。山の頂上付近では、降った雨はすぐ下方へ流れていってしまうので、分水嶺付近には水の流れはないのです。


  分水嶺から少し低い地点で、水が浸み出ていたり、湧き出したりしています。昔から人々は、水が湧き出ている地点を、その川の「水源」として、記念碑を建てたりします。


 川の長さとしては、水が湧き出している地点までが正しいのです。しかし、図上で計算して川の長さを決めているので、やむなく分水嶺までの長さになっています。
 
 以上、川の長さの一般的な原則を述べましたが、いかに川の長さの問題が難しいか、分かっていただけたでしょうか。各々の川で歴史が異なり、川の長さの決め方も川ごとに、少しずつ異なっています。川の長さは、その川を管理している国や県の事務所を訪ねて、質問するのが最も正確です。


  大きな河川の「一級河川」は国土交通省が管理していて、かならずその川には河川事務所があります。小さな河川の「二級河川」はそれぞれの都道府県が管理していて、近くに出先機関の土木事務所があります。


 ぜひ、そこでその川の長さを尋ねてください。
「川の長さの質問」は、その「川の歴史を質問」することにもなります。


【竹村公太郎 (財)リバーフロント整備センター理事長(2006年4月)】