1.地磁気

地球はそれ自身が大きな磁石になっています。磁石の周りに磁場ができるのと同様、地球の周りには磁場が生じています。これを地磁気と呼びます。地磁気の強さは、
nT(ナノテスラ)という単位で計測します。たとえば、赤道あたりでは約
30000 〜 35000 nT、極域では約 55000 〜 60000 nT
です。日本国内だと、沖縄では 44000 nT くらいなのに対して、北海道では
50000 nT くらいになります。市販されている肩こり用の貼付式磁石の磁場の強さが大体
1 億 nT ですので、地磁気の強さはずっと小さいことがわかります。
2.地磁気活動度

地磁気の強さは一定ではなく、常に変動しています。地磁気がこの数百年あまりのうちに減少を続けているという事実は一般によく知られていますが、それ以外にも、 1 日周期
・ 27 日周期 ・ 11 年周期といったようなもっと短い決まった周期で変動を繰り返していたり、数日間にわたって非常に乱れる現象
(地磁気擾乱 ( じょうらん ) 現象)が起こったりします。図
1 は、茨城県の柿岡地磁気観測所において、地磁気の強さが
2006 年 3 月 25 日から 4 月 7 日の 14 日間にどのように変動したかを示す図です。
3 月 25 日から 4 月 3 日の間は、 1 日に 1 回、磁場の強さが減少するという周期的な変動を繰り返していましたが、
4 月 4 日から 6 日にかけては磁場の強さが大きく減少した様子が記録されています。
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図 1 2006 年
3 月 25 日から 4 月 7 日にかけて茨城県柿岡で観測された地磁気の強さの変動。(
気象庁地磁気観測所提供 )
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このような 1 日周期の変動は、地球の昼側の電離層を常に流れている電流がおもな原因と考えられており、地磁気的に静穏な状況に見られるものです。一方、
4 月 4 日から 6 日にかけて見られた磁場強度の激しい変動は、昼側電離層電流に加えて、おもに地球周辺の宇宙空間または電離層の局所的な領域に流れた大電流が引き起こしたものと解釈することができます。地磁気活動度とは、平均的な
1 日周期の変動からのずれと定義されるもので、地球近傍の宇宙空間や電離層に流れる電流の状況を推定するための重要な情報を含んでいます。
3.地磁気活動度指数

地磁気活動度を指数化(数量化、指標化)すれば、複雑な擾乱現象をおおまかに定量的に把握できるという利点があります。指数化にはいくつかの方法があり、それぞれの指数が表わそうとしている擾乱を念頭に置いたうえでの利用が望まれます。広く使われている地磁気活動度指数には、たとえば、全球的な地磁気活動度を準対数的に表現しようとする
Kp 指数、磁気圏内のおもに軸対称的な環電流を表現しようとする
Dst 指数 ・ SYM-H 指数、極域オーロラジェット電流の大きさを表現しようとする
AE 指数などがあります。以下では、書籍版の理科年表にも掲載されている
Kp 指数を例として取り上げます。
Kp 指数は 1949 年にドイツ
・ ゲッチンゲン大学の Bartles によって考案された指数で、現在はドイツの
GeoForschungsZentrum Potsdam によって算出されています。
Kp という言葉は、ドイツ語の planetarische
Kennziffer(英語に訳せば、planetary index)
の頭文字を取ったことに由来しています。この指数はサブオーロラ帯
(オーロラが頻繁に見られる領域の少し赤道側)
に位置する 13 ヵ所の観測所で観測された地磁気データから
3 時間ごとに導出されます。各観測所における地磁気擾乱の振幅を対数的に表現した後、それらの平均値を
28 段階(静穏な順に 0,0+,1-,1,1+, ... 8-,8,8+,9-,9
)で示したもので、全球的な地磁気擾乱の程度を表わす指数として比較的広く使われるほか、地磁気静穏日
・ 擾乱日を決定するのにも用いられます。その算出法の詳細は算出元による説明
(
http://www.gfz-potsdam.de/pb2/pb23/
GeoMag/niemegk/kp_index/kp.html ・ 英語 )
や、Mayaud による解説書 ( Mayaud, P. N., Deviation,
Meaning, and Use of Geomagnetic Indices, Geophysical
Monograph 22, American Geophysical Union, Washington
D.C., USA, 1980 ) などを参照してください。また、日本語による解説は、
http://swdcwww.kugi.kyoto-u.ac.jp/kp/kpexp-j.html
にあります。
図
2 は 2006 年 1 月 1 日から 9 月 15 日までの
Kp 指数を示しています。地磁気の活動度は太陽活動によって大きく左右することが知られていますので、太陽の自転周期である
27 日を 1 単位として、 Kp 指数を横に並べて図にしたものです。
Kp 指数は 1 日に 8 個(3 時間ごとに 1
個)ありますので、左端から右端まで 216 個(
= 8 個/日 × 27 日)の Kp 指数が並んでいることになります。
Kp 指数の大きさは、縦線の長さ ・ 太さで表現されていて、長ければ長いほど擾乱が激しいことを意味しています。
Kp 指数が 5 を超えると、一定の長さの細線に加えて太線が下から伸びるようになっています。これは、線の濃淡により擾乱度を一瞥で理解できるようにするためで、楽譜に似ていることから
Bartels musical diagram と呼ばれています。図
2 を見ると、およそ 27 日ごとに起こる地磁気擾乱があること
(1 月 23 日から 26 日に起こったものとその後に約
27 日ごとに起こっているもの、赤線内)や 3 月
18 〜 19 日、 4 月 14 日、 8 月 19 〜 20 日に激しい地磁気擾乱があったこと
(縦線が太くなっているもの、青線内)がよくわかります。
【京都大学大学院理学研究科附属地磁気世界資料解析センター
(2006年10月)】
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