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  最新のがん研究と治療
生物部
「がん研究の最前線」より
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理科年表 2022

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 がんは、細胞性のがん遺伝子やがん抑制遺伝子と呼ばれる遺伝子群に何らかの変異が生じた結果発生することが明らかになった。また、細胞のがん化、がん細胞の成長、浸潤、転移のすべての過程で、がん細胞は周囲の正常組織の細胞や細胞外マトリックスと密接に相互作用しつつ進展、成長していくことなどの分子メカニズムも明らかになりつつある。がんの発生・進展などの理解が急速に深まったことにより、診断法や治療法も大きく変化した。

 がんの診断では、光学テクノロジーを用いた光イメージングによってがん細胞の可視化が可能になり基礎研究と診断に有用であることが明らかになった 図 1 )。個々の患者の個性を分子レベルで判定して、より安全で効果の期待できる治療を提供するような診断法も開発されている。診断に応用可能な分子を特定し、その分子の遺伝子発現情報や網羅的なタンパク質解析を利用した抗がん剤感受性予測法など、実用化を視野に入れた臨床研究が実施されつつある 図 2 )。また、抗がん剤を目的の臓器に選択性と有効性をもって送達させるナノバイオテクノロジーを用いた DDSdrug delivery systemも研究されているhttp://park.itc.u-tokyo.ac.jp/ )。  

( a )
( b )
( c )
図 1 腫瘍細胞の蛍光イメージング
白血病がん患者の末梢血細胞を、生きたまま核を染色する蛍光色素および、細胞膜タンパク質に結合する蛍光標識抗体を結合させ、レーザー共焦点顕微鏡を用いて 3 次元的に観察した例。正常白血球には見られない異型の核をもち ( a )、特定の細胞膜タンパク質の発現が高く ( b )、また細胞質に対して核が大きい ( c ) 多数の白血病細胞が末梢血液中に存在することが観察された。
[( a ) 核の形態 ( b ) 細胞膜タンパク質の発現 ( c ) 核 / 細胞膜の同時観察 ]
[ 資料提供 :癌研究会癌化学療法センター、オリンパスイメージングラボ ]


図 2 遺伝子、タンパク質解析によるがんの分子診断
個々の患者の個性を遺伝子、タンパク質の分子レベルで判定して、より安全で効果の期待できる治療を提供するような診断法が開発されている。具体的には診断に応用可能な分子を特定し、その分子の遺伝子発現情報や網羅的なタンパク質解析を利用して抗がん剤感受性予測する診断法などの実用化がなされつつある。

 

 抗がん剤もがん細胞に生じた特異な遺伝子産物の質的・量的な変化をピンポイントで攻撃するような分子標的治療薬がつぎつぎと開発されており、これからの抗がん剤開発は分子標的治療薬を中心に進むであろうといわれている 図 3 )。分子標的治療薬の今日の隆盛は、臨床で成功した薬が出てきたことによる。すなわち日本において 2001 年に承認されたリツキサンB細胞リンパ腫 )、ハーセプチン乳がん )、グリベック 慢性骨髄性白血病に続き、2002 年イレッサ非小細胞肺がん )、2006 年ベルケード 多発性骨髄腫 )、2007 年アバスチン大腸がん、タルセバ非小細胞肺がん )、2008 年レクサバール腎がんが承認されており、さらにこれらに続いて臨床開発研究されている多くの薬剤がある。

図 3 がん化学療法の分子標的
具体的な分子標的としては、がん遺伝子産物、シグナル伝達系、増殖因子とリセプター、転写因子、DNA 修復、テロメラーゼ、DNA 複製、細胞周期、細胞形態形成、耐性・感受性因子、膜酵素、転移と血管新生、各種サイトカイン、分化抗原、分化誘導とリセプター、アポトーシス、さらには遺伝子治療などが、新しい化学療法の分子標的として考えられている。分子標的薬剤は、その標的に作用することが主作用機作であることが期待されている。

 分子標的治療薬の多くが、標的の基礎研究にその根幹があり、それを応用化するいわゆるトランスレーショナルリサーチ TRの成果であり、日本における TR の活性化が必要とされている。また、分子標的治療薬は、標的が明確であることから薬の科学的証拠として POPproof of principleが求められ、バイオマーカー研究の重要性が増している。バイオマーカー研究はさらなる薬の科学的発見にもつながるものである。一方、分子標的治療薬にも色々な問題はある。既存の抗がん剤を含む他薬剤とどういった併用を考えるか、また現実的には高い薬価という問題もある。上述の遺伝子やタンパク質の発現解析で真に有効な患者をいかに見出し、オーダーメード治療に近づけ、これらの高価な薬を有効に使用できるようにするか等々、残された問題も多いが、分子標的治療薬は、夢の多い薬であるといえよう。これらの問題を解決して、真にがん患者に有益な薬剤が有効に使われる時代の到来を期待したい。

 放射線治療についても、感受性を規定する遺伝子に関する研究が進み、それらの情報が放射線治療の効率を高める治療法への応用につながっている。また、工学技法との連携で、リニアックなどの高精度放射線治療機器の開発 図 4 )、呼吸同期照射法、定位放射線治療法、小線源治療法、強度変調放射線治療法、陽子線治療、重粒子線治療などが行われるようになり、がん治療に大きく貢献することが期待されている。

【鶴尾 隆 (財)癌研究会癌化学療法センター(2008年 4月)】

 

図 4 高精度放射線治療機器 リニアック
位置補正照射、呼吸同期照射、定位放射線治療、強度変調放射線治療、等を可能にする高精度放射線治療機器 リニアックが開発され、乳がん、肺がん、前立腺がん、頭頸部腫瘍等のがん治療に大きく貢献している。 [ 資料提供 : ( 財 ) 癌研究会有明病院放射線治療部 ]