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  銀河団とは何か
天文部 「銀河団」より
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 恒星が数千億個も集まり銀河という重力に束縛された 1 つのシステムを作るように、銀河も時として数百 〜 数千という単位で集まり、さらに大きなシステムを作ります。それが銀河団です。銀河団に含まれる銀河の数は、暗いものまで含めると実に 1 万個という規模に達するものもあり、その質量は太陽 1000 兆個分、それが約 1 千万光年のスケールで集まっています。重力で束縛された系としては宇宙で最大規模の構造です。ちなみに、我々の銀河系から最も近い銀河であるアンドロメダ大星雲までの距離は約 250 万光年ですが、 1 千万光年はこのわずか 4 倍です。この小さな空間に何百何千という数のさまざまな明るさの銀河がひしめきあうのが、銀河団の姿です 図 1 )。なお理科年表の表の「銀河数」は、我々の銀河程度かより明るいものの数のおおよその目安を与えます。


図 1  ハッブル宇宙望遠鏡によるエイベル 1689 銀河団中心部。差し渡し約 200 万光年を拡大。淡い黄色の銀河のほとんどが銀河団に属する銀河で、明瞭な渦状銀河の多くは実際には銀河団の手前か背景にあるもので、銀河団のメンバーのものは少ない。無構造の楕円銀河あるいはレンズ状銀河の多さに注目されたい。なお、円弧状に細く伸びた青くて暗い天体が多く見られるが、これらは「重力レンズ効果」を受けた背景の遠方銀河である。距離 22 億光年。著作権 : STScI (http://imgsrc.hubblesite.org/hu/db/2003/01/
images/a/formats/large_web.jpg
)


 現在の宇宙論においては、銀河のような小さな系が最初に形成され、その後銀河団のような巨大な系が形成されてくるとされています。銀河団の形態は丸い形態から副構造を伴った不規則な形状まで、さまざまなものが観測されていますが、それは銀河団の力学進化の程度を反映していると考えられています。とくに遠方銀河団 = 若い時代の銀河団になると丸い落ち着いた構造の銀河団が次第に減ることが知られており、これも銀河団の進化が最近まで進んでいることを暗示しています。現在でもなお銀河団は周囲の銀河や小さな銀河群を飲み込み、成長を続けているのです。

 さて、銀河団は可視光では多くの銀河の集団として認識されますが、別項 ( 代表的な X 線源 (I)銀河団と楕円銀河 ) で解説されているように、銀河団には、実は見えている星の総質量の 10 倍近くにも達する大量の高温ガスが存在していることがわかっています。その温度はしばしば約 1 億度にも達し、莫大な X 線を放射しています。しかし、この高温ガスと銀河にある星の 2 つを合わせても、銀河団の総質量のたった 1 割強を説明できたにすぎません。この観測できない大量の「何か」が銀河団を満たしているのは確実なのですが、この正体は全くわかっていません。この重力でのみ存在が暗示される「ダークマター」と呼ばれる物質の正体は、現在の自然科学が解明すべき最大の課題の 1 つです。銀河団にとっては多くの銀河や高温ガスは「氷山の一角」にすぎません。ダークマターによる巨大で深い重力ポテンシャルの井戸、というのが銀河団の本当の姿といえます。

 銀河団に属する銀河についてももう少し触れましょう。銀河団の高温プラズマの中で飛び回る銀河たちも、当然多くの影響を銀河団環境から受けています。よく知られているのは、銀河団中心部での銀河の形態が、ほぼ一様に楕円銀河やレンズ状銀河 いわゆる早期型銀河で占められ、銀河団でない通常の宇宙空間に多く見られる渦状銀河の割合が非常に小さいことです 図 1 )。渦状銀河は活発に星を作る銀河であるのに対し、早期型銀河は無構造でほとんど星形成をしていません。銀河団が早期型銀河ばかりであるということは、すなわち星形成活動性が大変弱いということです。銀河団環境が銀河に及ぼす最も顕著な影響として、その現象の説明が試みられてきました。とくにハッブル宇宙望遠鏡により遠方 すなわちより若い時代の銀河団が調べられるようになると、近傍の銀河団に比べて遠方では活発に星を作っている渦状銀河の割合が増え、逆に星形成の弱いレンズ状銀河の割合が減っていく傾向があることがわかってきました。銀河団に落ち込んだ渦状銀河からレンズ状銀河への形態変化を示唆するこの現象を説明するために、銀河団ガスと銀河の相互作用や銀河団内での銀河同士の相互作用など、さまざまな説が唱えられています。

 銀河団の早期型銀河については、さらに「色−等級関係」と呼ばれる、非常にきれいに秩序だてられた関係で色と明るさがコントロールされているという事実があります ( 図 2 )。その色は大変古い星のみからなることを示しています。詳細な研究から、これらの楕円銀河では星々が銀河団が今の形となる前の早期宇宙において、一気に星を形成したのではないかと考えられています。実際、これら銀河団楕円銀河の祖先とも考えられる、宇宙がまだ若かった時代に既に大量の星を作り終えている進化の進んだ銀河や、塵の中で活発に星形成をしている銀河といった天体の候補が、非常に遠方の宇宙において相次いで見出され始めました。

 なお、色−等級関係には傾きが見られるのがわかります。暗い = 低質量の銀河ほど青い色をしているためですが、これほど美しく秩序づけられた直線関係を、どのように作り上げることができるのでしょう。理論的には宇宙ではまず小質量銀河のような構造から形成されると考えられるため、小さな銀河ほど系統的に若い 青いとするには困難があります。一方、重い銀河ほど星の平均金属量が高い= 赤くなるためという説もあります。重い銀河ほど重力ポテンシャルが深く、星形成で重元素汚染されたガスから星が繰り返し形成されやすいからです。しかし最近の楕円銀河の高分散分光による銀河年齢 ・ 金属量推定の結果では、色から期待される以上に両者にばらつきが見られることがわかってきています。さらに、遠方の銀河団では色−等級関係の暗い側でまだ関係がはっきりしていないケースがしばしば報告されるようになり、また上で述べたように、星形成の活発な青い渦状銀河が色−等級関係を担うレンズ銀河と進化的に関連していることを示唆する結果もあるなど、クラシカルな描像は大きな変更を迫られています。


図 2 かみのけ座銀河団における色-等級関係。 横軸が銀河の明るさ ( V 等級 )、縦軸が銀河の色指数 ( U-V : 上ほど赤い)を表わす。渦状銀河 ( Spiral ) 以外は非常にきれいに色が揃っている。 A . I . Terlevich , N . Caldwell , R.G . Bower ( Monthly Notices of the Royal Astronomical Society , 326 , 1547 ) の図 5 より転載


 銀河団とその銀河の進化に関する観測的研究は現在、観測技術の進歩によって「より遠く ・ より広く ・ より詳しく」調べることができるようになっています。日本でもすばる望遠鏡を用いた光赤外線域の研究から、 X 線や電波を用いた多波長観測研究、スーパーコンピュータ等を用いた理論的研究など、広範に行われています。今後もすばる望遠鏡をはじめとする大望遠鏡や、「すざく」 ・ 「あかり」といった天文衛星による集中的な研究により、ますます面白い時代を迎えることになるでしょう。

 

【田中 壱 国立天文台ハワイ観測所 (2006年11月)】