太陽コロナからは常に電波や軟
X 線(低エネルギー X 線 )が放射されているが、太陽フレア
(爆発)が発生すると、これらが急激に増加する。さらに、硬
X 線(高エネルギー X 線)や γ 線も放射される。電波
・ X 線 ・ γ 線の増加はフレアの物理過程に密接に関わっているので、太陽フレアの研究にはこれらの観測が欠かせない。
太陽フレアが発生すると、高温
(千万度程度)のプラズマが大量につくられ、そのために軟
X 線が急増する。また、非常にエネルギーの高い電子がつくられ、それが密度の高い太陽大気と衝突して、硬
X 線や γ 線を放射する。これを X 線バースト、
γ 線バーストと呼ぶ。電子だけではなく、陽子やヘリウムも加速されて高エネルギーとなり、太陽大気と衝突して原子核反応を生ずることがある。この核反応に特有なエネルギーをもったγ線の増加が観測されている。高エネルギー粒子は下層の密度の高い大気に突っ込むだけでなく、上空に逃げ出し、人工衛星や地上で直接観測される。これらを太陽中性子、太陽荷電粒子線と呼ぶ。このように、太陽フレアに伴って高エネルギーの電子、陽子、ヘリウムなどがつくられることはわかっているが、その加速機構はいまだに不明である。
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図
1 国立天文台野辺山電波へリオグラフで観測した太陽フレア
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高エネルギーの電子が黒点磁場に巻きつくと、マイクロ波の強い電波を放射する。これをマイクロ波バーストと呼ぶ。この電波の強さや周波数スペクトルから、加速された電子の数やエネルギースペクトルを求めることができる。さらに電波干渉計
(たとえば野辺山電波ヘリオグラフ
http://solar.nro.nao.ac.jp/index-j.html )
によって電波源の明るさの空間構造と時間発展を観測することにより、電子の加速される場所を特定したり、その電子がどのように広がっていくかを見ることができる。また、
X 線や γ 線望遠鏡(NASA の RHESSI 衛星 http://hesperia.gsfc.nasa.gov/hessi
) を用いて、 X 線や γ 線の明るさの空間構造と時間発展を観測し、電波観測と組み合わせて電子の加速機構についての研究がすすめられている。
マイクロ波より周波数の低いメートル波帯では、フレアの際に非常に多彩で複雑な周波数スペクトル構造が見られる。そのスペクトル構造と時間変化
(動スペクトルと呼ぶ)により、 I 型、 II 型、
III 型、 IV 型バーストと分類されている。そのうち、
III 型バーストは、光速の 1 / 3 程度のスピードの電子の流れに起因することが知られている。また、
II 型バーストは、フレアで発生した衝撃波に起因することが知られている。周波数の時間変化から、電子や衝撃波のスピードを求めることができる。
フレアでは、高温プラズマの生成、高エネルギー粒子の生成、衝撃波の生成以外に、高温プラズマ自体の放出を伴うことがあり、コロナ物質放出
(CME)と呼ぶ。 CME は、内に磁場を持ち、高速で惑星間空間に広がって地球にも届く。秒速
2000 km の場合、約 1 日で地球に到達する。これが地球の磁気圏にぶつかると地球磁場と相互作用して磁気嵐を起こす。太陽フレアに伴って、
X 線(および極端紫外線)が増加して地球の電離層の電離度を上げたり、高エネルギー粒子が地球をとりまく惑星間空間に充満したり、
CME によって磁気嵐を引き起こしたりして、地球近傍の宇宙空間の環境を大きく乱す。地球大気の底に住んでいるわれわれに直接影響を及ぼすことは少ないが、地球磁場の急激な変化が電磁誘導のために変電所の変圧器を破壊したり、極域を飛行する航空機の通信を妨害するなどの影響がある。さらに、地球大気の外にある人工衛星に被害が及んだり、宇宙飛行士が放射線被爆を受けたりすることもある。乱す原因としては、フレア以外にも、プロミネンス放出による
CME などがある。最近これらの問題がとくに注目され、宇宙空間の環境を研究する「宇宙天気予報」とよばれる分野が急速に発達している。
【柴崎清登 国立天文台野辺山太陽電波研究所(2006年11月)】
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