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  おもな赤外線源 銀河とクエーサー
天文部 「おもな赤外線源」より
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理科年表 2022

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 地球大気はその平均気温相当の熱放射をしているので、夜であっても空は赤外線で見ると明るい。したがって、かすかな系外銀河からの赤外線を地上から観測することは、 “ すばる ” のような大望遠鏡をもってしても難しいが、大気圏外に打ち上げられた赤外線観測衛星 “ スピッツアー ” や “ あかり ” では、可能であり、とくに、 2 μm より長い波長の赤外線観測にその威力を発揮している。

 では、銀河を赤外線で観測すると何を明らかにすることができるのだろうか?

 銀河は、およそ、星、および星間物質から構成されているシステムである。したがって、赤外線に限らず、これらからの光が重ね合わされたものを、私たちは銀河の姿として観測している。星は核融合反応により、みずから輝いているが、星間物質はそうではない。星間物質からの主要な放射は、星間塵からの熱放射や星間分子 ・ 原子からの輝線などの中間、遠赤外線であるが、この赤外線は星からの紫外線や可視光がその周囲の星間物質との相互作用により、変換されたものといってよい。とくに、放射エネルギーの源である若い星が高密度の星間物質に取り囲まれている星形成領域は、銀河における赤外線の主要な放射源である。一方、星自身も赤外線を放射しているが、年老いた赤色巨星からの 1 〜 2 μm 付近の波長の近赤外線が主要である。つまり、年老いた星が集中している領域は、近赤外線で明るく、星形成領域は、より波長の長い中間、遠赤外線で明るい。したがって、さまざまな波長の赤外線で銀河を観測すると、銀河の星間物質分布やそれぞれの領域の年齢を推測することができる。

図 1 赤外線衛星 “あかり” による渦状銀河 M81 の近・中間赤外線画像
宇宙科学研究本部


  図 1 は、平成 18 年 2 月にうち上がった赤外線衛星 “ あかり ” が観測した M81 の姿である。確かに、 3 〜 4 μm の近赤外線では、年老いた星を多く含むバルジが明るく見えているが、 7 μm 以上の中間赤外線では、星形成が活発な円盤部分が明るく見えている。この M81 は、円盤部でも星間ガスは星の 1 割程度しかなく、星形成も穏やかな典型的な渦巻銀河であるが、一方で、銀河全体が星形成領域の塊のような銀河もある。その代表的なものが M82 と Arp220 であり、それらの放射エネルギーの波長分布を図 2 に示した。

図 2 星形成銀河 M82 と Arp220 の放射エネルギーの波長分布
( Elbaz et al. 2002 , A & A , 384 , 848 から改編 )

 これらの銀河は、 100 μm 付近の遠赤外線でそのエネルギーの大半を放射しているが、そのエネルギーの源は若い星である。また、近赤外線域に年老いた星からの放射も見える。 M82 と Arp220 では、それぞれ、近赤外線に対する遠赤外線の光度が 100 倍と 1000 倍程度である。この遠赤外線と近赤外線の光度の比は、ざっと、若い星と年老いた星からの光度の比を表わしていることになるので、 Arp220 のほうが M82 よりも活発に星形成を起こしていることがわかる。

図 3 近傍の星形成銀河の中間赤外線スペクトル

  さらに、図 2 をよく見ると、この M82 と Arp220 の放射エネルギー分布は、中間赤外線の波長域で、複雑な構造をしていることがわかる。また、図 3 に、 M82、 Arp220 を含んでいないが、スピッツアー衛星が観測した近傍の星形成銀河の中間赤外線のスペクトルも示した。これを見ると、中間赤外線の複雑な構造は、硅素の塵による 9.7 μm と 18 μm の吸収の谷と多環芳香族炭化水素 polycyclic aromatic hydrocarbons, PAHなどから放射からなることがわかる。図 2 の 硅素による吸収の谷を比べてみると、 M82 よりも Arp220 が深いことから、 M82 に比べて Arp220 のほうが星形成率が高いだけでなく、星間物質の密度も高いと推測される。

 このように Arp220 が星間物質の集中とそれに伴った激しい星形成を起こしているのは、近傍銀河と相互作用しているという現在の宇宙では特異な環境にあるからと考えられている。しかしながら、現在ではほとんど星形成していない楕円銀河でも、過去に遡れば、その形成期には、この Arp220 のような激しい星形成を経験してきたはずである。実際、 z > 1 の宇宙では、 Arp220 のような放射エネルギーの波長分布を持った形成期にあると思われる銀河が多く存在することが明らかとなってきている。このように、赤外線、さらには、赤外線よりも波長の長いサブミリ波を用いた観測は、今後、銀河の形成、進化の解明をさらに進めるであろうと期待される。

 以上、星、および星間物質から構成されているシステムとして、銀河からの赤外線放射を見てきたが、クエーサーのように銀河中心核からの放射が卓越しているものもある。

図 4 活動的中心核を持つセイファート銀河 NGC4151 の中間赤外線スペクトル

 図 4 は、銀河中心核の存在が顕著なセイファート銀河 NGC4151 の中間赤外線スペクトルである。その構造は、星形成銀河で顕著であった多環芳香族炭化水素からの放射と硅素の吸収からなる複雑な構造が消え、単調なスロープ状の構造を示している。これから、銀河中心核は、ブラックホールへの星間ガスの降着によるエネルギー放出で、周囲の高密度の星間物質の塵が加熱され、中間−遠赤外線を放出していると考えられる。

【花見仁史 岩手大学(2006年11月)】

【 図の引用元 】
図 1 宇宙科学研究本部
 (http://www.jaxa.jp/press/2006/05/20060522_akari_j.html#at03
図 2 Elbaz et al. 2002, A&A, 384, 848から改編
図 3 http://www.strw.leidenuniv.nl/~brandl/IRS_starbursts.pdfのfig3
 から改編
図 4 Weedman et al. 2005 ApJ...633..706 のfig1 から改編