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 すばる望遠鏡の成果:鉄/マグネシウム輝線比による宇宙年齢の調査

理科年表 平成30年
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 重元素のない初期宇宙の星間ガスから超新星爆発により重元素が生成されるが,主にマグネシウムはType II型超新星,鉄はType Ia型超新星により生成される.前者は質量が重く寿命が短い(100万年程度)星の重力崩壊によるもので,星生成後早い段階で発生するが,後者は中程度の質量の星が進化した白色矮星が核燃焼の暴走により爆発するもので,星生成から発生までには10〜15億年程度の時間がかかる.この時間差を利用して若い天体の年齢が判定できることは1990年前後から考えられていた.特に,宇宙初期天体で一様に鉄が減少している事実を検出できれば,全ての天体が若い,すなわち宇宙の始まりが近いことを確認できる結果となり,宇宙モデルに大きな制約を与えるものと考えられる.
 クェーサーは通常の銀河の数十〜数百倍明るい天体で,静止波長で紫外線の部分には鉄とマグネシウムの強い輝線がみられる.これらの輝線の元となる重金属は,クェーサの母体となる銀河中の星生成活動によりつくられたものである.大雑把ではあるが,これらの輝線強度比は元素の存在比に比例するものと考えれば,遠方のクェーサーで鉄/マグネシウム輝線比から元素存在比を推定することが可能である.現在観測されている最も遠い宇宙では大きい赤方偏移(5〜6)のため,静止波長で紫外線の上記輝線でも近赤外線で観測しなければならない.また,鉄輝線は数多くの輝線が連なって広い波長に分かれて存在するため,輝線というよりは連続放射に近く,連続放射から分離して鉄輝線の強度を求めるためには広い波長範囲を高い精度で観測する必要がある.
 すばる望遠鏡のOH夜光除去分光器は,近赤外線で観測の妨げとなる強いOH夜光輝線の大半を分光的に取り除く装置で,現在,世界で最も優れた近赤外分光感度と広い観測波長域をもつ装置である.この装置を用いて,現在発見されている最も遠いクェーサーを含む4.4<z<6.3のクェーサー14天体が分光され,鉄/マグネシウム輝線比が調べられた.その結果は,赤方偏移5の宇宙でも既にかなりの量の鉄が存在しており,その時点での宇宙年齢は10〜15億年より古いというもので,これにより宇宙論モデルにある程度の制限をつけることができた.表は,各赤方偏移での宇宙年齢を代表的な3つの宇宙論モデルについて調べたものである.

赤方偏移
(0は現在)
宇宙年齢(億年)
(1) (2) (3)
0 130.4 127.4 161.9
1 46.1 54.8 73.8
2 25.1 32.7 42.2
3 16.3 22.4 27.8
4 11.7 16.6 20.0
5 8.9 13.0 15.2
6 7.0 10.5 12.1
7 5.7 8.7 9.9

モデル 1:H0=50 km/s/Mpc
Ωm=1.0, Λ=0
平坦な宇宙
モデル 2:H0=65 km/s/Mpc
Ωm=0.2, Λ=0
開いた宇宙
モデル 3:H0=65 km/s/Mpc
Ωm=0.2, Λ=0.8
宇宙項を含む平坦な宇宙

 今回の観測により,上記モデル1(宇宙項のない平坦な宇宙モデル)は棄却され,その他のモデルの可能性が高まった.現在,大フォーマットCCDを用いた可視光での大規模な掃天観測が進められており,赤方偏移が6を越えるクェーサーも多数検出されることが予想されている.それらの天体に対しても近赤外分光観測を行っていくことにより,宇宙論モデルに対しさらなる制限をかけていくことが可能であるものと考えられている.

【 岩室史英 】