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 天文部 南極からの天文学

理科年表 平成30年
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 近年,南極大陸内陸の高地に望遠鏡を作ろうする動きが活発になっている.本稿ではなぜわざわざ南極に望遠鏡を作ろうとするのか,それによってどんな新たな天文学の世界が拓けるのか,について概説する.
 現在の地上大型望遠鏡の多くは,中緯度の絶海の孤島にある高山(例えばハワイ・マウナケア)あるいは大陸西岸の高地(例えばチリ・アンデス山脈)に設置されている.その理由は,これらの場所は標高が高く気流が安定しているため星像の揺らぎ(シーイング)が小さく,かつ空気が乾燥しているため水蒸気による光の吸収に邪魔されることなく赤外線・電波観測を行うことができるからである.また人間の住んでいる場所から容易に到着できる場所であることも,望遠鏡が設置された大きな理由の一つである.
 これらの場所は 1970年代に開拓され,以来世界最良の場所として次々と大型望遠鏡が設置され,現在では口径 30〜40m クラスの超大型望遠鏡が計画されている.しかしまたこのような最良といわれる場所でも,望遠鏡の性能が地球大気によって大きく制約されている状況は変わらず,より良い望遠鏡設置場所を探す努力がなされてきた.
 南極大陸での天文観測は 1970年代末の太陽 5分振動の発見から始まった.南極では夏期には太陽が沈まないため,超長時間の連続観測が可能であり,非常に弱い振動現象を高精度で検出できる.また南極は気温が低いため水蒸気量が非常に少なく,電波での観測,とくに宇宙背景放射の研究が行われるようになり,優れた成果が生み出され続けている.
 一方,光・赤外線領域では南極点基地で SPIREX が設置されたが,南極点は光赤外線観測で重要なシーイングが悪く,また晴天率もあまり高くないことがわかり,その後しばらく活動が下火になっていた.しかし南極内陸に広がる高地,その中でもドームと呼ばれるなだらかな地形のピークで氷床コア掘削がはじまり,それにあわせてフランス,イタリアを中心にドーム地形の一つであるドームCで天体観測条件の調査が行われたところ,上記の中緯度帯のベストな場所をはるかに凌ぐ良い観測場所である可能性が示された.それ以来南極内陸に天文台を設置する動きが世界的に活発化し,3大ドーム地域(ドームA,ドームふじ,ドームC)での調査が進んでいる.
 南極ドームの特徴は(1)標高が高く( 4000m 前後)低温のため水蒸気量が非常に少ない(電波望遠鏡アルマが設置されているアタカマ高地の約 1/5 ),(2)低温のため大気からの赤外線放射が少ない,(3)シーイングが非常に良く(ハワイ・マウナケアの約半分)晴天率も高い,である.例えばドームふじに口径 2m の望遠鏡を設置すると,ある波長域ではすばる望遠鏡と同等の性能になる.もしすばる望遠鏡をドームふじに設置すれば,中緯度天文台の口径 30m 望遠鏡に相当する性能を発揮できる.それだけでなく,南極でなければ不可能な波長(その多くは水を含む物質と関連がある)での観測や,超長時間連続観測が可能となり,例えば新たな種類の系外惑星の発見や系外惑星大気の詳細観測が可能になる.電波観測でも南極点よりもさらに良い大気透過率によって,今まで不可能だったテラヘルツ領域の観測が初めて可能になり,ダストに埋もれた高赤方偏移銀河の探査などにより,宇宙再電離や銀河形成進化に新たな知見が得られることが期待される.
 またドームは非常になだらかな地形のため,見渡す限り平坦な雪原が広がっている.優れたシーイング条件とあいまって,赤外線干渉計を展開すれば超高空間分解能観測が可能になる.
 しかし,南極天文台実現には解決すべき課題も多い.最も重要なのはインフラの整備,とくに物資の輸送手段と通信バンド幅の充実である.物資の輸送が 1年に 1回の現状では, 1年に運べる物資量は限られているうえ,何か問題が発生してもその解決は 1年後となる.さらに南極内陸は人間が活動するには過酷な環境であるため,遠隔操作あるいは自動運転が必要である.また望遠鏡という大型精密重量物を,−70℃を下回る低温下で確実に動作させるだけでなく,不安定な雪上に長期にわたって安定に設置する必要もある.これらの問題を一気に解決できると良いが,無理な計画は人命の危険に直結する状況はアムンゼン,スコットの時代と変わらない.天文以外の分野とも国際的に協力して,着実に課題を解決して行く必要がある.

 南極は地上と宇宙の中間のような存在である.観測条件は地上のどこよりも良いが,宇宙空間よりは劣る.望遠鏡へのアクセスの容易さも地上と宇宙の中間である.南極でなけば実現できない近未来のプロジェクトを続けて行くことが重要である.
 新たな観測の窓を手に入れることによって,今まで予想できなかった全く新しい発見がなされる可能性が生まれると期待したい. 

【高遠徳尚】


表1:南極のおもな光赤外線望遠鏡


表2:南極のおもな電波望遠鏡
SP:アムンゼン−スコット南極点基地(標高 2835m; 米),
Mc/L:マクマード基地(気球)(米),
TNB: テラノバ湾基地(伊),
DC:ドームCコンコーディア基地(標高 3233m; 仏・伊),
DF: ドームふじ基地(標高 3810m; 日),
DA:ドームA 崑崙基地(標高 4093m; 中)



図:2011年にドームふじ基地に設置された越冬観測装置群
(写真:沖田 博文氏)