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 環境部 エネルギー・環境問題とバイオマス

理科年表 平成30年
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 バイオマスエネルギーの定義は多様である.ただ,あえてひと言で定義するならば,「生物由来の自然循環型エネルギー」*1という表現になるだろうか.字面だけ見るとこれまでない新エネルギーをイメージするかもしれない.しかし,現在のバイオマスエネルギー消費の大部分が薪などの燃焼用木材だといわれたらどうだろうか.そう,じつは人類は原始の時代からバイオマスエネルギーを利用しているのだ.近年,地球温暖化対策の観点から再生エネルギーが注目されている.そして,この再生エネルギーの中核を担うのがバイオマスエネルギーである.なぜ,近年になってバイオマスエネルギーが再び注目を集めているのだろうか?

*1 石油などの化石燃料は生物死骸の長期堆積によりできたといわれている.したがって,広義のバイオマスエネルギーに化石燃料が含まれていても不思議ではない.しかし,化石燃料は再生が容易でないことから循環型エネルギーとしての価値は認められていないのが現状だ.このため,現在,化石燃料はバイオマスエネルギーとは独立した概念として扱われ議論されている.

導入動向
図1は世界全体の一次エネルギー(自然界に存在するエネルギー)供給の推移を示したものである.この図からわかるように一次エネルギー全体に占める再生可能エネルギーのシェアは拡大基調にある.一方,図 2はその再生可能エネルギーの種類別消費構成をグラフ化したものである.この図からは,再生可能エネルギーのじつに 90%以上をバイオマスエネルギーが占めていることがわかる.


図1 世界の一次エネルギー供給の推移*2


図2 世界の再生可能エネルギーの消費構成(2007)*2

*2 経済産業省:“エネルギー白書2010”(2010)より転載

バイオマスの特徴と分類
 バイオマスエネルギーの供給源であるバイオマスは,文字通り「生物資源(bio)」の「量(mass)」と定義される.そしてこのバイオマスは農林水産系と廃棄物系の2つの資源に大別される.農林水産系とは林木,作物,海藻などの生物資源を指す.一方,廃棄物系は下水汚泥,生ゴミ,廃材などである.これらのバイオマスの構成成分のうちエネルギー生成の源となるのが資源内に蓄積された炭水化物だ.この炭水化物は植物の光合成によってつくり出される.光合成とは植物などによる水,二酸化炭素と太陽光との反応だ(図 3参照).よって,バイオマスエネルギーの利用によって排出される二酸化炭素は,もともと大気中に存在していた二酸化炭素ともいえる.つまり,ここにバイオマスエネルギーの生産,利用による正味の二酸化炭素排量=ゼロという試算が成立する.これが再生される範囲内でのバイオマスの利用が地球温暖化に影響しないと規定される所以である.バイオマスエネルギーがいま注目を集める最大の理由がここにある.


図3 バイオマスの分類と利用形態

バイオマスエネルギーのメリットとデメリット
 上記に示した温暖化への寄与以外にも本エネルギーのメリットは多数ある.その 1つが循環型社会構築への寄与である.たとえば生ゴミや下水汚泥などは,その多くが未利用のまま処分されている.よってこのような廃棄物系資源のエネルギーとしての利用は,新たな資源循環を生む.また,従来にないエネルギー産業の勃興,ならびにこれにともなう雇用の創出などもメリットに挙げられる.エネルギー形態の特性も記しておく.バイオマスエネルギーは,他のエネルギーに比べて貯蔵や輸送に優れている.すなわち,固体や気体(ガス化),液体,といったさまざまな形態へと転換が可能である.このメリットは,電力などの難貯蔵エネルギーと比較するとわかりやすい.
 一方,デメリットも多い.その1つが食料との競合の問題である.2000年代に始まった農業生産国でのバイオ燃料(おもにエタノール)の増産は,作物価格の高騰を招いた.これにより発展途上国を中心に食糧危機が叫ばれたことは記憶に新しい.直接的な影響を疑問視する声もあるが,作物価格に少なからず影響を及ぼしたことは間違いないだろう.また,これに関連して,食べ物として口にする作物をエネルギーに転用することに対する倫理的な問題も指摘された.さらに,環境問題に関する報告もある.ブラジルなどでは,バイオエタノール用作物の農耕地確保のために大規模な熱帯雨林の伐採が行われた.これが生態系の破壊や森林による大気中の二酸化炭素固定量の低下を引き起こしたのである.もともと環境問題の対策として行われてきたバイオエネルギー政策が新たな環境問題を引き起こすという皮肉な結果を招いた事例といえる.

科学技術への期待
 地球温暖化や新興国のエネルギー需給拡大などを考慮すると,バイオマスエネルギーに代表される再生可能エネルギーの割合は今後も拡大してくことが見込まれる.この過程では上記課題への対応が肝要であることはいうまでもない.その対応策の 1つとして期待されているのが科学技術である.たとえば,食料との競合の問題では,非食部(作物の茎や葉など)を利用したエネルギー生産技術の開発が行われている.また,近年は,藻などの光合成生物の体内に高濃度の液体燃料を蓄積させる研究開発も活発だ.さらに,エネルギーへ加工しやすいように作物の機能を改変したり,作物全体の収量を上げる技術開発なども盛んである.これらの技術はいずれも最先端のゲノム科学を基盤としたバイオテクノロジーである.原始時代から行われてきたバイオマスエネルギー生産が近年注目を浴び始めたのは,このような技術の進展とも無縁ではないだろう.


今後の展望
 今日,我々人類は温暖化,生物多様性の損失,窒素の物質循環などさまざまな環境課題に直面している.そして,これらの問題は年々多様化しているのが現状だ.なぜ環境問題はここまで複雑化したのだろうか? 問題の本質はこれらの環境問題が「エネルギー需給」,「経済成長」と密接に関係していることにある.すなわち,どれか 1つが変動すると他の2つにさまざまな影響を及ぼす関係性が成立しているのだ.よって,環境問題の解決を理由にバイオマスエネルギーだけを増大させることは得策とはいえない.なぜなら,他のエネルギー生産や経済発展に影響を及ぼす可能性が出てくるからだ.重要なことは,他のエネルギーとの組み合わせの中でバイオマスエネルギーをいかに活用していくかという視点である.バイオマスエネルギーは多様な地球規模課題の対応策の 1つの選択肢に過ぎない.将来のエネルギー利用形態,産業構造,社会情勢などを勘案しながら最適なバイオマスエネルギーのあり方を考えなければならないのだ.既存のエネルギー利用や経済成長も含めた総合的なエネルギー戦略が国政府には求められているのである.

【川口 哲】