トップ 徹底解説 理科年表FAQ 理科年表広場 理科年表プレミアム 質問箱
理科年表とは 特集 検索 ダウンロード よくある質問 ヘルプ
トップ  > バックナンバー > 平成26年 > トピックス > 暦部 旧暦 2033 年問題について
 暦部 旧暦 2033 年問題について

理科年表 平成28年版
大正14年創刊以来の伝統・歴史とともに、記述の正確性にも定評がある科学データブックの最新版です。理科年表オフィシャルサイト探索のお供に、ぜひともご活用ください。また、本書のご購入により、オフィシャルサイト内「理科年表広場」へのアクセスが無料となります。
☆ハンディタイプの「ポケット版」と、大きな活字の「机上版」の2種類がございます。(内容は同一です。)
◆ポケット版 A6判
定価1,400円
+税
◆机上版 A5判
定価2,800円
+税
理科年表[平成28年版]の特徴や、新規・大幅改訂項目に関する詳しい情報はこちらをご覧ください。
 2014 年は 1 月と 3 月に 2 回ずつ朔(新月 )がある一方,2 月には朔がない.それ自体はとくに珍しいことではなく,19 太陽年が 235 朔望月にほぼ等しい 1) ことをふまえれば,前回が 1995 年,次回は 2033 年というのも容易に理解できるだろう.これは,月の満ち欠けをもとにする太陰太陽暦と太陽暦の関係が 19 年でほぼ元に戻るということと同義であるが,次回 2033 年にはその関係にちょっとした問題が生じることが知られている.

 わが国ではさまざまな文化や慣習が太陰太陽暦に端を発しており,今でも旧暦という呼び方でそれは生き残っている.なお,旧暦とは,厳密には太陰太陽暦の中でもとくに天保暦 2) のことを指すのだが,既に廃止され,その手順どおりに推算・公表する機関もないため,通常は現代天文学による朔や二十四節気の情報を元に構築しているというのが実態のようである.具体的には,朔を含む日を各月の 1 日とし,二十四節気のうち雨水・春分など偶数番目のもの = 中気を用いて,正月中である雨水を含む月は 1 月,二月中である春分を含む月は 2 月のように定めればよい.

 ここで,二十四節気について復習しよう(図 1 ).



二十四節気は太陽の視黄経が 15 度の倍数になる瞬間をもって定義されるが,この決め方は定気法(実気法 )と呼ばれ,天保暦から導入されたものである.それ以前は,1 年の長さを 24 等分して二十四節気を定めていた.このような方法を平気法(恒気法 / 常気法 )という.

 平気法では中気と中気の間隔は一定で, 1 年の長さ ÷ 12 ≒ 約 30.4 日である.朔から朔までの間隔はおよそ 29.3 〜 29.8 日の間で変化するが,必ず中気の間隔の方が長い.したがって,基本的には各月に中気が 1 個ずつ入り,時折生じる中気のない月が閏月となる.

 地球が常に一定速度で運動していれば平気法でも定気法でも結果は変らない.しかし,実際には地球が近日点を通る頃 = 冬 3) には速く動く 4) ので中気の間隔は短くなり,反対に遠日点を通る頃 = 夏には遅く動くので中気の間隔は長くなってしまう.その変動幅はおよそ 29.5 〜 31.5 日であり,とくに間隔が短くなる冬には,旧暦のひと月の間に中気が 2 つ入りそれが何月か決まらなくなる事態も起こりうる.このため天保暦では,冬至を含む月は 11 月,春分を含む月は 2 月,夏至を含む月は 5 月,秋分を含む月は 8 月となるように調整するというルールが加えられた 5)

 以上の説明だけではわかりにくいと思うので具体例を示そう.まず,2014 年では各月に 1 つずつ中気が入り,10 月 24 日からの月だけ中気が入らないので閏 9 月となる.

(表 1 )

 次に示すのは 1984 年の例であるが,12 月 22 日からの月に冬至と大寒の 2 つが入っている.この月は冬至を含むので 11 月となり,次の月は雨水を含むが 12 月に,その次は中気を含まないが 1 月になる.そして,残った中気を含まない月が閏 10 月となる.

(表 2 )

 では肝心の 2033 年はどうか.下表のように,中気の 2 つ入る月が 2 つ,中気の入らない月が 3 つも存在しているのである.天保暦のルールによれば 9 月 23 日からの月は秋分を含むため 8 月,11 月 22 日からの月は冬至を含むため 11 月ということになるが,その間に 9 月と 10 月を入れようにも,10 月 23 日からの月しかないため不可能であり,旧暦が決まらないことになる.これが旧暦 2033 年問題であり,天保暦導入後初めて起こる事態である.

(表 3 )

 これを回避するにはいくつかの案が考えられる.冬至と秋分の両方の条件を満たすことは出来ないので,まずは冬至を優先するか(案 1 ),秋分を優先するか(案 2 )を選ばなくてはならない.また,冬至を優先した場合も,大寒と雨水に順位付けはないので,案 3 のような並べ方も可能だ. ところで,天保暦よりも先に定気法を採用した中国の時憲暦ではどのようになっているのだろう.じつは,冬至を含む月から次に冬至を含む月までに 13 か月ある場合に,中気が入らない最初の月を閏月とする,と定められているだけなのだそうだ 6) .極めてシンプルであり,これなら案 1 で確定する.むしろ天保暦のルールが過剰なのがいけないというわけだ.だからといって,すべて時憲暦ルールに合わせればよいということにはならないだろうが,古来,中国や日本の暦法では冬至を定めることが出発点だったことをふまえれば,冬至を優先するのは妥当な判断なのかもしれない. 旧暦は既に廃止されており,公的機関がどの案を採用するか決定することはないだろう.皆さんならどれがお好みだろうか.ちなみに中秋の名月は,案 1 の場合は 9 月 8 日,案 2 の場合は 10 月 7 日ということになる.2014 年の中秋の名月も 9 月 8 日なので,案 1 のように冬至を優先しても,そのせいで中秋の名月が早くなりすぎるということはない.

【 片山真人 】

1) 1 章あるいはメトン周期という.
2) 天保 15 年 = 弘化元年より用いられた,江戸幕府最後の暦法.
3) 近日点通過がどの季節になるかは,長期的には,歳差と近日点の移動により約 21,000 年の周期で一巡する.
4) ケプラーの第 2 法則による.
5) 新法暦書続録巻四「・・・二至二分必各在其本月・・・」
6) 薮内清著 中国の天文暦法 平凡社